コメディ・ライト小説(新)

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Ghost helpers!
日時: 2016/11/14 20:37
名前: 北風 (ID: baOn2Ld/)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=11169

初めまして北風と申します。
ここに小説をあげるのは初めてです。

この小説はもともと別のチャットサイトにあげていたものです。
それを少し修正し書き直したものがこの作品です。

初心者だし、初めて書いた小説なのでグダグダな所もありますが、どうか見限らずに読み続けてくれるとありがたいです^^

あと、コメントやアドバイスは これでもかー!ってくらい欲しいです!誰かに褒められていないとやる気がすぐに無くなる面倒な人間なので(笑)

少し辛口なアドバイスでも喜んで受け取らせて頂きます。
気が向いたら何か書いて下さると有り難いです。

まだまだ未熟ですが、私の小説で少しでも多くの方に楽しんでいただければ幸いです^^



この小説は基本真面目に見せかけたコメディーです!

どうぞ軽い気持ちで読んで下さい!



Re: Ghost helpers! ( No.19 )
日時: 2017/02/22 19:59
名前: 北風 (ID: rk41/cF2)


《13話》

それから、いつもの場所に行っても桃菜に会う事はできなかった。
放課後の時間を利用して毎日探し回ったが、桃菜はどこにも見当たらなかった。

その日も俺は半ば無駄だと分かりつつも、町中を徘徊していた。
狭い路地や電柱の後等、幽霊の好みそうな場所を重点的に。
……野良猫と桃菜以外の霊ならいくらでも見付かったが、いつまで経っても桃菜は見付けられなかった。

「……疲れた」

大した距離は歩いていない筈だが、常に周囲に気を配っている為か心身ともに限界が近付いている。
一休みしようと、俺は目の前にあったコンビニに足を踏み入れた。
適当に飲み物を見繕い、数人が並んでいるレジに向かう。

「ん?」

と、そこで俺は前に並んでいる男に見覚えがある事に気が付いた。
くるんとそいつの正面に回り込み、真っ直ぐ顔を見据える。

「うお!?」
「……やっぱりお前だったか……」

驚いて飛び退くそいつを俺は睨み付けた。

「……道塚」
「うわうわうわ! なっんだよお前! びっくりしたぁ!」
「うるせぇよ、店内で騒がしくすんじゃねぇ」

相当驚いたらしく、道塚は心臓に手を当て息を整えている。
何堂々とコンビニ来てんだ、この不登校野郎。
大人しく引き込もって敗北の悔しさを反芻してろ。

「ふ、不良のお前にマナーを説かれたくねえよ……何だお前、この近く住んでんのか?」

あからさまに嫌な表情を見せる道塚。
露骨な奴だ。
お前と御近所同士なんてこっちこそ御免被りたい。

「いや、今日はちょっとだけ遠出しててな…………ん」

と、そこで俺の脳裏に一つの考えが過った。
そうだ。
まだこいつに、聞いていない事があった。

「…………」
「な、何だよ」

突然沈黙して考え込んだ俺を、道塚は気味悪そうに睨んだ。

「道塚」
「お、おう」
「レジ。買わねぇんだったら抜かせてもらうぜ」
「うおっ、ちょ、てめえ!」

レジ待ちの順番が自分に回ってきている事に気付かなかった道塚を、俺はひょいと抜かして会計に向かう。

「順番はきちんと守れ!」
「不良のお前にマナーを説かれたくねえよ……道塚、ちょっと聞きてえ事があるんだが、答えてくれるか?」
「は、はあ?」


    ※

「で? 何だよ聞きてえ事って」

コンビニの前で待っていると、暫くしてレジ袋を下げた道塚が出てきた。

「……結構買ったなお前」
「か、関係ねえだろ」
「ちょっ見せろ、何買ったんだよ」
「止めろ!」

抵抗する道塚のレジ袋を強引に毟りとり、中を覗き込む。

炭酸飲料(2L)×3
スナック菓子×5
アイス×2

「道塚……お前ニートしてんなぁ……」
「黙れ!」

羞恥と屈辱に真っ赤になって叫ぶ道塚。
楽しい。

こいつが俺に手を出せないのは雪と俺の仲が良いからだろう。
虎の威を借る狐以外の何者でも無いが、この優越感はなかなかのものだ。
にしてもこいつ弄り甲斐あるなあ。
今なら少し道塚の気持ちが分かる。
だが俺はこれ以上しつこく苛めるつもりは無い。
道塚にレジ袋を返すと早々に本題に入った。

「で、道塚。体育倉庫についてなんだが」
「体育倉庫? ああ、お前らまだあの御守り探してんのか? だから言ったろ、あれは盗られた、って」
「誰にだ?」
「は?」

道塚が怪訝な顔で聞き返してくる。

「知るわけねえじゃん、それが分かれば最初から言ってるわ」
「そうか……まあそれはそうだろうが……」
「な、何なんだよ……」
「容疑者」
「あ?」

そうだ。
こいつは仮にも(元)学年トップ。
雪には至らなかったが、その実力も相当のものだ。
当然その強さに憧れて、もしくは保身のために、道塚の配下に着く生徒も多いだろう。
沖花を苛めていたのは道塚一人でも、道塚が御守りを隠した事を知っている奴も居るのでは無いか?

「お前以外に、倉庫に御守りが隠してあるって知っていたのは、誰だ?」

そこから、御守りを探し出せる可能性も、まだある。

「……かなり居ると思うぞ。とりあえず学校には…………30人ちょいか」

何か癪だが、やはりこいつに着く生徒は多い。
恐らく大半が一年生だと思われるが、入学してまだ一ヶ月も経たない内にここまでのコミュニティを築けるのは実力だろうか。
いや?
ちょっと待て。

「『学校には』? 校外にも居るのか?」
「おお。ウチの学校、セキュリティがガバガバだろ? 他校の不良が攻め込んでくる事もよくあるし。逆に仲良いトコの連中も来る。そいつらだって知ってるかも知れねえ」
「…………」

だとすると容疑者の数は計れない。
更に個人の特定も出来ない…………やはり無理か。

「あと前あの辺でガキも見かけたな」
「え?」

子供?

「体育倉庫の周りをフラフラしてたぜ? こんくらいの女のガキ。近所の子供か?」

そう言って道塚は自分の腰上くらいで手の甲を上に向ける。
道塚の身長は180足らず。
そうすると、その子供は140前後……。

「!」



──桃菜?


──そう言えば沖花の様子見に来てたっつってたな──


──て事は道塚も視える?──


──いやちょっと待て──


──となると──



「お、おい? マジで何なんだよ……」

道塚は熟考する俺を半眼で眺めていた。
が、俺はそんな事は気にせず、真っ直ぐに走り出した。

「うっわ!? ……訳わかんねえアイツ……」

困惑するような道塚の声が遠ざかっていくのを感じながら、俺は口許に笑みを浮かべ更に加速した。


《13話・完》

Re: Ghost helpers! ( No.20 )
日時: 2017/03/21 20:12
名前: 北風 (ID: rk41/cF2)

《14話》



『な……何でここが……』

そんな追い詰められたサスペンスドラマの犯人のような台詞を口にしながら、驚愕の表情を浮かべた少女が後ずさる。

「……そんなビビんなよ。大丈夫だ、桃菜」
『何で、ここが分かったの』

桃菜はまだ緊張を解こうとせず、服の胸部分を両手でしっかりと掴んで、防御体制に入っている。

『来たこと無いでしょ? ここに──私の家に』


     ※


今俺は、沖花宅の玄関前にいる。
だが桃菜の言う通り、沖花の家には来たことが無かった。
無論場所は知らない。

だから、探したのだ。

杏菜に初めて会った場所付近を、しらみ潰しに。

「大変だったぜ? すっかり日も暮れちまって、途中から表札見にくくて仕方無かったしよ。まあ余り無い名字だからな。ダブらなくて良かった」
『もう発想がストーカー』
「っ!?」

予想外の辛辣なコメントに、俺は思わず絶句する。

『……明日学校でお兄ちゃんに聞けばよかったのに』

そう言う桃菜は口許には笑みを浮かべているものの、目は悲しみを湛えていた。
──またそんな複雑な表情かおをする。
俺は息を吐いて顔をしかめた。

「まあそれでも良かったんだが……なるべく早く伝えたくてな」
『…………何を』

「御守りの在り処」

『……っ!?』

桃菜は目を見開き息を呑んだ。
相当驚いているようで、全身が硬直している。

「まあ、まだ確証は持てないんだがな。とりあえず、行ってみるか?」

言いながら空を見上げると、日が沈み薄暗くなっている。
逢魔が時。
幽霊の本領発揮の時間帯だとは言うが。
目の前の幽霊少女は、弱々しい声で『……うん』と呟くと、俺の制服の袖を握った。
俯いているため、その表情は図れない。
俺は黙って彼女の頭に掌を置き、歩きだした。


     ※


『え、ここって……』

桃菜が唖然として言葉を溢す。

「そ。学校だ」

白前高等学校。
既に見慣れた、俺の通う学校だ。
満束の言った通り、閉門後であっても進入は驚くほど容易かった。
進入と言うか、普通に入れた。
白前は、これ以上の風紀の乱れを防ぐために完全下校時刻が早めになっているが、その意味とは。
敷地内にも不良と思われる学生がちらほらと見受けられる。
一応は教育施設。
未成年者を預かる立場としてこの警備はどうなのだろうと思ったが、今回はそれが幸いした。

『え、えっと……でもここは……』

桃菜は戸惑いを露にして語尾を濁らせた。
言いたい事は分かる。
この学校はまず選択肢から除外するべき場所だ。

だが、だからこそ。

一度俺達の視野から外れたここに、『隠し直す』やり方は有効だ。

無論、そのためには俺達の動きを常に把握していなくてはいけないが。

『ほ、本当にここに?』
「いや、さっきも言った通り、まだここにあると分かりきってる訳じゃねえ。あくまでその可能性が高いだけだ」
『でも、何で可能性が高いって……?』

そう問いながら俺を見上げる桃菜は、まだ緊張と戸惑いを隠せずにいる。
俺はそんな彼女の態度を切り捨てるように、きっぱり言い切った。

「御守りの在処は不確定だが…………御守りを盗んだ犯人には目星がついてるからだよ」
『! …………』

桃菜の瞳が揺れる。
そしてゆっくりと顔を伏せ、そのまま黙り込んだ。
その反応の意味は分かっている。
俺は敢えて言葉を発さずに、目的の場所へ歩を進めた。


     ※


そこに着いた頃には日は完全に落ちて、もう夜と呼ぶべき時間帯に差し掛かっていた。
大量に羅列している体育倉庫の内の一つに寄り掛かり、腕時計を見る。
文字盤は七時五分を示していた。
確か約束の時間は七時だった筈だ。

「……もうしばらく待つか」

元より独り言のつもりの呟きだったが、何となく桃菜の反応を確認してしまう。
桃菜はずっと黙って、顔を隠すように俯いたままだ。

「あ、宗哉……。遅れてごめん……」
「お、来たか」

待っていた声に顔を上げると、雪と満束が小走りでやって来た。
二人を一纏めにするような表現をしたが、実際は満束が雪の4mくらい後に位置する。
足取りもややオドオドしている。
近付きたくないんだろうな……心底。
だが雪はそんな満束の態度を気にせず、手に持っている物を誇らしげに掲げた。

「……あった……!」

それは、黄色のフェルトで造られた小さなサイズの手作り御守りだった。

『あっ!』

桃菜が声をあげる。
視線を向けると、彼女は慌てて顔を伏せ直した。
だが、これで御守りが本物だと確信した。

「まさか……本当に見付かる、とは……思わなかった……」
「ありがとな、雪」

俺がそう言うと、雪は嬉しそうに頬を綻ばせた。

「おいコラ! オレにも感謝しろよテメェ!」
「ああ……そう言えばお前も居たっけ」

やはり数m距離を置いて抗議の声をあげている満束。

「居たっけって何だよ! オレもこれ探すのに貢献したぞ!?」
「お疲れ。もう帰って良いぞ、事の発端」
「う"……」

満束に向けて、片手でしっしと追い払う仕草を見せる。
彼は悔しそうに唸っているが、これだけ離れていては怖くも何ともない。

「帰れるもんなら帰ってるわ! ……オレも見付けたんだよ」
「は? 何を?」
「これ」

言いながら満束は、背後から何か取り出して俺に突き付けた。
いや──それが何かは、この距離でも一目瞭然だった。


『えっ!? 杏菜!?』


桃菜が叫んだ。
その声には、驚きというよりも恐れが多く滲んでいた。

『嘘……』

そして、茫然と呟きながら俺の後ろに回り込む。
背中に触れている小さな手が、震えていた。

「──そ、」

つい驚愕の声が出そうになったが、辛うじて平静を装う。

「そいつは……」

何か訊ねようとしたが、咄嗟の事で言葉が出てこず、語尾が消えてしまった。
だが満束は何となく俺の言いたい事を察したのか、掴んでいた杏菜の襟首を離した。

途端、杏菜は走り出した。
雪に向かって。

「ッ!」
「わっ……と」

そして、雪に飛び付く。
雪は軽く身をかわし、杏菜の手は空を掻いた。
両掌を地面に突くようにして着地した杏菜は、素早く起き上がって雪を睨みつけた。

「…………!」

今までと同じく、声を発する事は無い。
だが、無機物のようだった瞳には、今は確かに感情が滲んでいる。

「そいつだよ、オレが見たガキってのは。なんか知んねえけど、必死になって御守りを奪おうとすんだよ」

その一言を聞いて、俺の中で何かがカチリと音を立てた。

「杏菜」

俺の呼ぶ声に反応して、息の上がった杏菜が振り向く。

そして驚きの表情を浮かべた。

体の動きが停止し、目を見開いて小刻みに震えて始める。
俺は黙って彼女に歩み寄った。
雪が不思議そうに首を傾げる。

「杏菜、もう良い」

少女の目を見て、俺は静かに告げた。


「もう──演技は、良いんだ」



《14話・完》

Re: Ghost helpers! ( No.21 )
日時: 2017/05/02 10:47
名前: 北風 (ID: cr2RWSVy)

《15話》


場の空気が凍り付いたようだった。

杏菜は泣き出しそうに顔を歪め、数歩後退する。
まるで俺が苛めているような雰囲気になり、余り気分は良くなかったが、それでも。
真相を明らかにする義務が、俺にはあるように思えた。

知ってしまった者として。
気付いてしまった者として。
生者と死者の橋渡しができる者として、全てを明らかにしてこの少女達を救う義務がある。

だから、俺は言葉を続けた。

「そんな演技をする必要は、無い。俺はもう……全部分かっている」
「……」

俺は肩越しに背後を窺った。
少し離れた露ころに桃菜が立ち尽くしている。
こちらの視線に気づくと、こぶしを握り締めて覚悟を決めたように頷いた。

「杏菜」
「…………」

杏菜は瞳を揺らして怯えたように俺を見上げた。


「お前の口から話してくれねぇか? 今回の事、最初から全部」


「――――」


                  ※

「…………? 宗、哉?」

雪の声がどこか遠くから聞こえる。

俺の言葉を聞いた途端、それまで恐怖が濃く映されていたいた杏菜の目から、一瞬だけ光が消えた。
初めて出会った時のような、無機質な目になったのだ。
だが、すぐに。

彼女は、口元に薄く笑みを引いた。

そして、小さな唇が動く。


「……凄いね、本当に分かったんだ」


雪が息を呑む気配が伝わってくる。
俺は目を閉じて深く溜め息を吐いた。

さすが双子。
桃菜と同じ声色だ。
だが、彼女とは声の調子がだいぶ違う。
女児らしい高い声音だが、妙に落ち着き払っていて大人びている印象を受けた。

この二人は顔だけ見れば区別が付かない程似ているが、喋ればこんなにも大きな違いが露見する。
それほどまでに、『喋り方』というのはその人の個性が表れるのだ。
声真似の類も、単純に声が同じなら良いという話ではない――口癖やイントネーションの置く位置、語彙の量、話す時の態度等の全てが一致して、初めて違和感が消える。
それをやってのけるのは至難の業だ。
特に小さい子供となると、たくさん練習してどうにかなるものでは無いだろう。

そう――小さい子供。

俺は目を開けて眼前に佇む少女を見据えた。
彼女は静かに微笑んで、再度口を開く。

「でも、分かってるなら……私の事を『杏菜』って呼ぶのは、間違ってるんじゃない?」
「ああ……そうだな」

今度は間を開けずに、一息で言い切る。


「桃菜――お前は、双子の姉の、沖花桃菜だな?」


「………………」

眼前に佇む少女は──桃菜は、笑顔を貼り付けたまま黙っている。
本物か偽物か分からない笑顔。

──これも、真実に辿り着く道標となった。

桃菜はゆっくりと口を開き、言葉を吟味するように語り始めた。

「……ハッタリとかじゃなくて、本当の本当に分かったみたいだね……じゃあ、良いよ。私の口から全部話すね」

と、後ろから右の袖を引かれた。
振り向くと、俯いている一人の少女が立っていた。
──杏菜。

『……ごめんなさい……』

彼女の口から零れたその一言は、誰に向けられたものなのか。
どんな意思を込めたのか。
俺には分からなかった。

《15話・完》

Re: Ghost helpers! ( No.22 )
日時: 2017/05/02 10:48
名前: 北風 (ID: cr2RWSVy)

《16話》

「私はずっと、杏菜が羨ましかったんだ」

暫くの沈黙の後、桃菜はぽつぽつと語り出した。

場の全員が彼女に注目する。
桃菜は一人一人の顔をじっくりと見渡しながら喋り続けた。

「……いや、恨めしかったのかな? 運動もできて、勉強もできて、性格も良くて」

そこで桃菜は口を閉ざし、俺の袖を掴んでいる杏菜を見つめる。
そして、今までずっと浮かべていた笑顔を消し、暗く濁った瞳を見開いて言った。


「私には、何も無いのに。


     ※

……ずっと思ってたよ、私は杏菜に全部奪われて生まれてきたんだって。
いらないものを押し付けられた、脱け殻なんだって。
それならいっそ──消えてしまいたいって思ってた。

だからかな。

あの日、学校の帰り道。
二人で歩いていたとき。
こっちに向かって車が突っ込んでくるのを、避ける気は起きなかった。

気付いたら私は地面に座り込んでいて、そこにはもう車はいなくて。
目の前には杏菜が倒れていた。

姉を庇って死ぬ。
良い話だと思うし、杏菜らしいと思う。
でも、最後の最期まで綺麗な性格でいた杏菜を、私は憎んだ。
そして、少しでも彼女を汚してやろうという思いと、消えたいっていう思いがぐちゃぐちゃに混ざって……私は。

自分の名前が書いてあるランドセルと靴を、動かなくなった杏菜の物と交換して、
     ※

それから、走ってその場から去った」


『…………』

杏菜の瞳から涙が零れていく。
小さい肩を震わせて、杏菜の話に聞き入っている。

桃菜が抱えているものは、幼い少女には持ちきれないほどの劣等感だった。
同じ顔、同じ体形、同じ声。
何もかも同じだからこそ、圧倒的に違う中身に嫌悪したのだろう。
そして、成り代わろうとした。
それがコンプレックスから逃れる唯一の方法だと、彼女は考えたのだ。

桃菜は一つ深呼吸をすると、また喋り出した。
少し哀しげな表情で。

「……その時は混乱してて……よく考えずに動いちゃってたんだ。後から後悔することになったけどね。

     ※

当然といえば当然だけど……上手に杏菜になりきる事は出来なかったよ。
まあ、それが出来るなら最初からしてるし。
特にお兄ちゃんの目を誤魔化すのは難しいと思った。
だから、まず声を消したの。
声自体を出さなければ、変なこと喋って正体がバレるような事にもならない。
次に、気持ちを消した。
この頃にはもう全部面倒臭くなってきて、誰とも関わりたくなかった。
姉妹仲は良かったし、杏菜は姉思いの優しい子だったからね。
双子の片割れを失ったショックで『こう』なったという話で、皆納得してたよ。
お陰で学校行かなくて良くなったけど、日中家に誰も居ないから暇で。
何となく事故のあったあの場所に行ってみたんだ。
そしたらそこで出会ったの。

死んだはずの、『桃菜』に。

凄くびっくりした。
びっくりして──悲鳴をあげようとした。
でも、声が出て来なかったの。
出て来なかったというか、出し方を忘れちゃった感じ。
自分は『声を出してない』んじゃなくて『声が出せない』んだ、って気付いて、怖くて怖くて……恥ずかしい話だけど、その場で泣き出した。
『桃菜』は慌てて慰めてくれた。
やっぱり『桃菜』の存在に疑問は持ったけど、余りに生きてる時と変わらない調子だったから、何だか安心して。
落ち着いてきたら、声も出るようになった。
……それで、急に気まずくなった。
『桃菜』は言った、全部見てたって。
私のやった事、全部。
私が視えてなかっただけで、『桃菜』は見てた。
それを聞いて、私はまた堪らなく怖くなった。
絶対に怒ってると思ったからね。
でも、『桃菜』は許した。
呆気なく笑って許してくれた。
何で私が杏菜になろうとしたのか、とか……そういう事は訊かずに。
死んでも変わらない人柄の良さに、私は──苛々した。
早くこの場を立ち去って、一刻も早く『桃菜』の笑顔を忘れたかった。
でも、別れ際に『桃菜』は言った。

『演技でも、ずっと声出さないままだと本当に声出なくなっちゃうよ? 私話し相手になるから! いつでもここに来てね』

……ふざけるな、誰が行ってやるか、と思ったよ。
その時はね。
だけど、その後も気付けば私は『桃菜』の所に通っていた。
何だかんだ言って、私は話せる相手が欲しかったのかな……。
本当に意志が弱い、自分で呆れるよ。

でもある日、その意志の弱さとか、未練を断ち切るチャンスが来たんだ。

私がお兄ちゃんにあげた御守りが、高校で盗られた。
それを一緒に探して欲しいって『桃菜』に頼まれたんだ。

その御守りは、私がお兄ちゃんに教わって作った物で、数少ない『桃菜』の遺品だった。
私は不器用だから、出来は最悪だったけど、お兄ちゃんはそんなのでも大切に持ち歩いてたよ。
まあ、そんなものくらいしか、私の手作りの品なんて無かったんだけどね。

だからこそ、思った。

このままお兄ちゃんが御守りを諦めてくれたら、『桃菜』は消えて行くんじゃないかって。

だから、私は。

『桃菜』より先に御守りを見付けて、別の場所に隠せば……もうお兄ちゃんに見付かる事は無いって考えた。
捨てたり、私が保管する手もあるけど、私は基本お兄ちゃんに見張られてるからね。
見付けたらすぐに隠すのが良いと思って。

それで、必死になって探して見付けてそこから盗み出して──

     ※

──ここからは分かるよね? ……はい、これでお終い。ふう……喋り疲れちゃった」

そう言って桃菜は話を終えた。

気怠げに溜め息を溢し、俺に視線を向ける桃菜。
暗い目には変わらぬ余裕が満ちている。
挑発的にも感じる、子供らしからぬ毅然とした態度に気圧されかけるが、俺は静かに言葉を返した。

「それで終わりか?」
「うん」

桃菜は迷わず頷く。
当然だと言わんばかりに。

「本当に、か?」
「……そうだけど?」

再確認を不思議に感じたのか、桃菜の表情に怪訝そうな色が滲む。
だがそれも一瞬眉をしかめた程度で、またすぐに薄い笑顔に戻った。
そして念を押すように繰り返した。

「そうだけど、何か──」
「違う」

言葉を俺に遮られた桃菜は、ハッとした様に目を開いた。

「な、なにを──」
「それだけじゃ無い筈だ」
「……」

焦って吐き出した言葉をまたも遮られ、桃菜は少し苛立ちを露にした。
先程のものとは違い、怒りの籠った溜め息を吐き、彼女は一歩俺に詰め寄った。

「何? それだけじゃ無いって。私全部話したでしょ?」

いや、まだだ。
まだ足りない。

確かに今の話は真実だろう。
真相が明らかになり、御守りも返ってきた。
これで杏菜も沖花も救われる。

だが、まだだ。


まだ、桃菜が救われていない。


「じゃあ──」

俺はそう言って一歩前に踏み出した。
袖口を掴んで嗚咽を漏らしていた杏菜が、びくりと身を震わせる。

「じゃあ、お前はあの時、杏菜と何を話していたんだ?」

《16話・完》

Re: Ghost helpers! ( No.23 )
日時: 2018/09/09 00:34
名前: 北風 (ID: Pi/sh895)

《17話》

俺の言葉を受けた桃菜は、面倒臭そうに視線を滑らせ、口を開いた。

「あー……そう言えば見られてたんだっけ」

俺が杏菜に会いに行ったあの日、杏菜と桃菜は何か言い争いをしていた。
それからだ、杏菜の様子がおかしくなったのは。
あそこまで執着していた御守りの捜索を断念し、いつも居た路地裏から姿を消した。
原因は間違いなく桃菜との会話にあるだろう。

「別に。あの子、私が御守りを隠した後も探し続けてたからさ。教えてあげただけだよ? 御守りは私が先に見つけて、あんたに見付からないような場所に隠し直した、って。泣いて理由を訊かれたけど、教えなかった。もう会う事も無いと思ってたからね」

杏菜は淡々と言う。
確かに、この話には不自然さは無い。
それを本人も分かっているのだろう。
未だ余裕の表情を保ったままだ。

「杏菜……」
「?」
「俺がお前の正体に勘付けたのは、根拠があったからだ」
「な、何? 突然」

俺の言葉に余りに脈絡が無かった為か、桃菜はややたじろぐ。

「お前の兄ちゃんに言われたんだよ、『桃菜は運動も勉強もできなかったが、人を騙したり操ったりするのは巧かった』ってな。ま、実際あいつは末恐ろしい子供だったし、そう聞いても俺は大した違和感は覚えなかったんだがな……あの日、お前と杏菜が口論になってた時、ふと思ったんだよな──『逆』じゃないかって」
「へぇ……それがどうしたの?」
「そう仮定して考えてみたら、全てが繋がった。だからまあ……お前の正体に気が付いたのは証拠あっての事だった訳だが……ここから先の話には根拠も証拠も無い」

でも、俺が最も明らかにしたかった、するべきだと思った話でもある。

「……で? 何の話なの」

桃菜の目に、僅かだが警戒心が宿った。
口許はまだ平静を装って笑みを浮かべているものの、先程とは違う緊張感が場には張り詰めている。

「だから、あの時お前と杏菜が話していた事についてだよ」
「……それはもう話し──」
「いや、まだだ。」

俺は強引に桃菜の言葉を遮った。
桃菜は笑顔を消し、表情を曇らせる。

「まだ、お前は全部話していない」
「……」

桃菜の表情が固くなる。

初めに見せた、無感情な無表情でもない。
貼り付けたような怯えでもない。
余裕を含んだ笑みでもない。

焦り。

今の桃菜の表情からは、何かが露見する事を恐れた、焦燥感が見てとれた。

「図星みたいだな」
「ちが……違う……私は……」

桃菜は何か言おうと口を開いたが、すぐに歯を食い縛って押し黙ってしまう。
焦りを滲ませた瞳は忙しなく泳ぐものの、何を捉えるでもなく空回っていた。
俺の考えが正しければ、桃菜が杏菜に真実を喋った理由は他にある。

『杏菜が御守りを隠した後も探し続けてたから、教えてあげただけ』?
教える理由は無いだろう。
杏菜への未練を断ち切る為に隠し直したというのに、わざわざそれを杏菜に伝えていては意味が無い。

これではまるで――

「ヒントみたいだ」

俺の言葉に、桃菜がぴくりと反応する。
逃げ道を探すかのように動き回っていた視線は、無意味に彼女の足元で止まった。

「お前の行動は、杏菜にヒントを与えてるみたいだっつってんだよ」
「…………!!」

全身を硬直させ、桃菜は目を見開いた。

「え……? どういう……」

雪が怪訝そうに訊ねてくる。
まあ、この流れで理解しろという方が無理がある。
俺も最初は信じられなかった。
いや……今の今まで、確信を持ち切れてもいなかった。

「雪、俺は──俺達は、ずっと桃菜(コイツ)に利用されてたんだよ」
「……?……」
「桃菜は、杏菜に御守りの在処を仄めかすような事を言って、杏菜が動くのを唆したんだ。すると連鎖的に動かざるを得ない人物が居るだろ?」

いや、と言うより……連鎖的に動くこと(・・・・)が出来る(・・・・)人物、か。


「俺だ」




『……?』
「…………?」

杏菜と雪が『それはそうだろう』とでも言いたげにきょとんと首を傾げる。

俺は杏菜から御守り捜索の依頼を受けた張本人であり、桃菜以外で杏菜を認識する事の出来る唯一の存在でもある。
そんな俺が、依頼主である杏菜の様子がおかしくなった時、最も不審に思うのは当然の事だろう。

「俺が杏菜の事を調べるのを前提に、桃菜は杏菜を唆したんだ」
「え……じゃあ……」
『……!』
「ああ。桃菜はきっと、自分の正体が明らかになる事を望んで──」


「待って!!」


俺の言葉を遮り、絹を裂くような叫び声が響いた。

「待ってよ…………私は……私は……そんな……」

俯く桃菜の足元に、涙が零れ落ちる。
彼女は、嗚咽を漏らしながら糸が切れたように座り込んだ。

「やめてよ……そんな……こと……」

感情と声を失った少女。
実の妹を羨み、成り替わろうとした姉。
桃菜が必死に貼り付けていた仮面が、剥がれ落ちていく。

本性が、露わになっていく。




「そんな事、お兄ちゃんが知ったら……」




後に残ったのは。




「お兄ちゃん……私の事…………嫌いになっちゃう……」




ただ家族に愛されたかっただけの、一人の子供だった。


《17話・完》


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